クローン病とは
大腸の炎症が慢性的に続く炎症性腸疾患の代表的な病気であり、炎症が悪化する活動期(再燃期)と症状が落ち着く寛解期を繰り返します。口から肛門までの消化管全域に炎症を起こす可能性がありますが、主に大腸と小腸に生じ、病変の存在する位置によって小腸型、小腸・大腸型、大腸型に分けられ、症状や必要な治療法が異なってきます。
原因がまだわかっていないことから根治に導く治療法がなく、厚生労働省により難病指定されていますが、専門医による正確な診断と適切な治療を継続することで症状をコントロールできれば発症前とあまり変わらない生活を送ることも可能です。
免疫とクローン病
クローン病では過剰に作られたTNF-αという体内物質が炎症を引き起こしていることが判明していますが、クローン病の発症原因はまだわかっていません。
現在、遺伝的な素因を背景に、複数の環境因子などが関与し、リンパ球などの免疫細胞が過剰に反応して生じていると考えられています。
クローン病の症状
病変のある位置や状態などによって様々な症状を起こし、症状の内容や現れ方には個人差があります。約半数程度に腹痛や下痢が現れるとされていますが、こうした症状なく合併症の痔ろうなどの発症からクローン病が発見されるケースもあります。
主な症状
- 腹痛
- 下痢
- 発熱
- 体重減少
- 全身倦怠感
- 血便・下血
- 切れ痔
- 肛門の潰瘍や膿(痔ろう)
症状が悪化する活動期(再燃期)と症状の落ち着く寛解期を繰り返しますので、症状がある場合には炎症をできるだけ短期間に抑える治療を行い、寛解期に入ったら症状のない状態をできるだけ長くキープするための治療を継続します。また、クローン病は合併症が多く、手術が必要になる深刻な合併症もあります。
さらに、症状のない時期にも進行している可能性があり、継続した治療と定期的な検査は不可欠です。
クローン病の合併症
クローン病では、最初に粘膜の浅い部分に炎症が生じますが、進行するにつれて深い場所に広がっていきます。こうしたことから、腸管の狭窄や閉塞、穴が開く穿孔、膿がたまる膿瘍、腸管と皮膚や内臓をつなぐトンネル状の管である瘻孔など、深刻な腸管合併症を起こすリスクがあります。大量出血や大腸がん・肛門がんを発症する可能性もあります。
また、腸管以外にも関節炎、虹彩炎、結節性紅斑、肛門部病変といった皮膚や関節、眼などに合併症を起こすこともあります。
クローン病の検査・診断
クローン病は、主な症状や活動期(再燃期)と寛解期を繰り返すなどの経過が潰瘍性大腸炎とよく似ています。潰瘍性大腸炎は同じ難病指定された炎症性腸疾患ですが、必要とされる治療内容や注意すべき合併症リスクなどが大きく異なる場合があります。そのために、クローン病の適切な治療には、専門医による確定診断が不可欠です。
当院では、問診で症状の内容や現れはじめた時期と経過、既往症や服用されている薬などについて伺った上で、大腸カメラ検査を行って確定診断につなげています。
大腸カメラ検査ではクローン病特有の病変の数や位置、形状や色、構造、範囲などを正確に把握でき、組織の採取も可能です。採取した組織の病理検査を行うことで様々な大腸疾患の確定診断につながります。当院では熟練した専門医が精度の高い大腸カメラ検査を行っており、鎮静剤を用いることでウトウトした状態で楽に受けて頂けるようにしていますので、安心してご相談ください。
クローン病の治療法
炎症を抑えて良好な状態をキープする薬物療法を中心に、腸を休ませて必要な栄養を補給できる栄養療法などを組み合わせた保存的療法を行います。深刻な合併症がある場合や、病変が広範囲に生じているなど保存的療法では十分な効果を得られない場合には外科手術を検討します。
薬物療法
炎症が生じている活動期(再燃期)には炎症をできるだけ早く鎮める治療を行います。寛解期になったら良好な状態をできるだけ長くキープするための治療を継続します。寛解期に治ったと勘違いして治療を中止してしまうと悪化して再燃してしまいますので、しっかり治療を続けることが重要です。
活動期(再燃期)と寛解期に継続して投与される5-ASA製剤による治療を中心に、活動期(再燃期)には副腎皮質ホルモン(ステロイド)でできるだけ短期間に炎症を抑えます。それ以外にも、必要に応じて免疫調節薬、抗TNF-α抗体である生物学的製剤、抗菌薬などが使われることもあります。薬物療法ではありませんが、内科治療として血球成分除去療法を行うこともあります。
5-ASA製剤(5-アミノサリチル酸)
腸の炎症を抑えて、寛解期を長くキープする効果も期待できる薬です。炎症のある範囲によって適した薬があり、大腸の炎症にはサラゾスルファピリジンが、小腸と大腸の炎症にはメサラジンが使われます。
副腎皮質ホルモン(ステロイド)
症状の内容や副作用リスクなどを考慮した上で、様々なタイプのステロイドから最適なものを選択します。ブレドニゾロンは強力な炎症抑制が可能であり、できるだけ短期間に炎症を鎮めたい場合に使われます。
副作用リスクに懸念がある場合にはブレドニゾロンを用いることもあります。
免疫調整薬
免疫反応を抑制して寛解に導く効果を期待できますが、ステロイドのように短期間での効果は見込めず、安定まで長期間かかる可能性もあります。ステロイドの量を減らす必要がある際などに使われます。アザチオプリン、6-メルカプトプリンがあります。
抗TNF-α抗体製剤
クローン病の炎症を起こしているのは、過剰に作られているTNF-αという体内物質です。インフリキシマブ、アダリムマブといった抗TNF-α抗体製剤は、TNF-αの働きを抑制する効果を期待できます。
栄養療法
クローン病は食事からの刺激で炎症を悪化させやすいことから、症状がある時期に腸を休ませて必要な栄養素を補給するために栄養剤を投与する栄養療法が必要になることがあります。栄養療法は投与方法や内容などによっていくつかの種類に分けられます。
経腸栄養療法
口や鼻から投与する液状タイプの栄養剤です。消化が必要な半消化態栄養剤、消化の必要がない消化態栄養剤と成分栄養剤があり、状態に合わせて選択します。
完全静脈栄養法
点滴で投与する高濃度栄養輸液です。重度の狭窄など重い合併症がある場合や、小腸の広範囲に病変が広がっている場合などに選択されます。
日常生活での注意点
症状が落ち着いている寛解期が続き、安定したコントロールができていれば発症前とそれほど変わらない生活が可能です。仕事や学業なども特に制限はされませんが、寛解期を長くキープするためには、食事などに関してある程度の制限を守る必要があります。
なお、女性の患者様では治療を続けて寛解期をキープしながら妊娠・出産・育児も可能です。
運動
過度な運動は避ける必要がありますが、軽い運動は状態の改善に役立つという報告もあります。状態や体調などにも合わせる必要がありますので、主治医に運動内容について相談し、無理のない範囲で行うようにしてください。
食事
クローン病は食べたものによって強い刺激を受けて状態が悪化する場合があります。低脂肪で食物繊維が少ない食事が基本ですが、それ以外にも制限が必要になる場合があります。その内容は病変部位や消化吸収機能などによって変わり、個人差だけでなく状態の変化によっても変わります。症状が出やすい食材、問題のない食材を知るために、毎回の食事をスマートフォンで撮影しておくと参考になります。
ただし、制限する食べものを闇雲に多くしてしまうと、栄養の偏りや不足を起こしてしまいます。寛解期には、確実に合わないものは避ける程度にしましょう。
アルコール
飲酒の影響についてはまだわかっていませんが、過度の飲酒を避け、寛解期に適量を飲む程度でしたら特に問題がないと考えられています。
喫煙
喫煙はクローン病の炎症を悪化させることがわかっていますので、禁煙が必要です。
妊娠・出産
クローン病の治療を継続して寛解期をキープしながら安定した状態にコントロールできれば、妊娠・出産も可能であり、実際に妊娠・出産された患者様も少なくありません。
妊娠中もクローン病の治療を続ける必要があり、再燃しないようより慎重なコントロールが不可欠です。妊娠がわかって慌てて自己判断でクローン病の治療を中止してしまうと、再燃して強い症状が現れ、胎児への影響も懸念される強い薬を使った治療が必要になってしまいます。妊娠がわかったらすぐに主治医に相談して、治療方針を確認しましょう。
なお、将来、妊娠する可能性のある女性には、事前に主治医に相談して妊娠した際のクローン病治療について十分な知識を持っておくことをお勧めしています。